初代シェイクスピア&カンパニーの絵本2021/06/27

 シェイクスピア&カンパニーの創始者、シルヴィア・ビーチを描いた絵本が出ていた。
Sylvia's Bookshop: The Story of Paris's Beloved Bookstore and Its Founder (As Told by the Bookstore Itself!)
4歳から8歳の子供向け、でもちゃんとジェイムズ・ジョイスやスタイン、ヘミングウェイ、マン・レイなどが登場するらしい。これを手元に置かないでどうする。
注文した。

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 シルヴィア自身が書いた『シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店』、それから作家たちとの交流が詳しく語られる『シルヴィア・ビーチと失われた世代---1920、30年代のパリ文学風景』はしばらく前に古書を入手した。わがまま大作家ジョイスがいつ終わるともなく『ユリシーズ』を書き続け、シルヴィアがせっせとお金を工面する様子が、実に困ったことなのに不思議と優雅でおかしい時代なのだ。

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人は孤島ではない〜『クララとお日さま』とAGI2021/04/26

 ジョン・ダン(イギリスの詩人 1572-1631)が「人は誰しも孤島ではない」と謳った時、その言葉が400年後の汎用人工知能論に結びつくとは想像しなかったに違いない。って当たり前だけど。

  No man is an island, entire of itself; 
  every man is a piece of the continent. 
  人間は、誰も孤島ではない。
  いかなる人も、大陸の一片であり、主要なものの一部なのだ。

古めかしい「人は島嶼(トウショ)にあらず」という訳も素敵だ

 カズオ・イシグロ『クララとお日さま』を読み、書評とAI論に目を通した。すると、頭に浮かんだのがジョン・ダンだった。とは言っても、考えがまとまっているわけではなく、雲のようにふわふわ浮かぶだけ。とりあえず気になった部分をスクラップしておきましょ。


 Radhika Jones によるニューヨークタイムズの書評 "Humanoid Who Cares For Humans, From the Mind of Kazuo Ishiguro" は、3月1日付だった。

“I believe I have many feelings,” Klara says. “The more I observe, the more feelings become available to me.” This statement had the peculiar effect, on me anyway, not of persuading me of her humanness but of causing me to consider whether humans acquire nameable feelings all that differently from her description. Which is maybe also the point.


 3月30日のニューヨーカー誌に、中国系アメリカ人作家 Ted Chiang の "Why Computers Won’t Make Themselves Smarter" シンギュラリティ論が載った。テッド・チャン作『あなたの人生の物語』はハヤカワ文庫から出ている。

 ニュートン後の人々が、彼の研究に基づきさらに様々な手法を生み出したという話の後に
This ability of humans to build on one another’s work is precisely why I don’t believe that running a human-equivalent A.I. program for a hundred years in isolation is a good way to produce major breakthroughs. An individual working in complete isolation can come up with a breakthrough but is unlikely to do so repeatedly; you’re better off having a lot of people drawing inspiration from one another. They don’t have to be directly collaborating; any field of research will simply do better when it has many people working in it.


そして『クララとお日さま』には

「ポールさんの言う『心』は、ジョジーを学習するうえでいちばん難しい部分かもしれません」とわたしは言いました。「たくさんの部屋がある家のようだと思います。でも、AFがその気になって、時間が与えられれば、部屋の一つ一つを調べて歩き、やがてそこを自分の家のようにできると思います」
     略
「だが、君がそういう部屋の一つに入ったとしよう。すると、その部屋の中にまた別の部屋があったとしたら? その部屋に入ったら、そこにもさらに部屋がある。部屋の中の部屋の中の部屋......きりがないんじゃないのか。ジョジーの心を学習するというのは、そういうことになると思わないか。いくら時間をかけて部屋を調べ歩いても、つねに未踏査の部屋が残る......」 
p.312

 クララ「カパルディさんは、継続できないような特別なものはジョジーの中にないと考えていました。 探しに探したが、そういうものは見つからなかった――そう母親に言いました。でも、カパルディさんは探す場所を間違ったのだと思います。特別な何かはあります。ただ、それはジョジーの中ではなく、ジョジーを愛する人々の中にありました。
p.431


こうして読み進むと、
 人が人であることは、個々の内にある意識だけではなく、周りの人々とのつながりにも(きりがないほど)大きく広がっていく。AIは人間を超えるだろうか。人工知能が、その途方もない広がりを認知できるだろうか。人間は大陸の一片なので。孤島ではないので。
 ふわふわ雲のあらましはわりと単純だ。

入門書・参考書2021/03/01

 1月に注文した本がようやく届いた。予想より大判のハードカバーで、カラー図版が美しい。興味のある項目に付箋を貼りながら、日向でページをめくった。
サットン・フーの兜、発掘にまつわる映画があるらしい。Netflix を再開しようか。今日ゴールデングローブ賞を受賞した"Nomadland"も見なきゃいけないし。
冬学期が終了し、時間はたっぷりある。でも、読みたいもの見たいものが多過ぎて、毎日忙しい。

 持ち物を増やしたくない年齢になった。たいていの本は図書館にリクエストして読む。でも、図書館にないこんな reference book 参考書類は購入するしかないだろう。Big Ideas Simply Explained シリーズは big idea という書名の通り、物理、経済、宗教、エコロジー、フェミニズムなど大きい分野の概説書だ。しばらく気になっていたが、今回初めて購入した。

 読みやすい入門書シリーズは、これまでに幾つも出版されている。1990年代からの Beginner's Documentary Comic Books シリーズはモノクロの愉快なイラストが特徴的だった。絶版もあるが、Kindle版で一部復活した。人文系の難解なテーマが解ったような気分にさせてくれたものだ。

jazz clmusic castaneda

 2000年代に入って、2つのシリーズをよく見かけるようになった。
The Complete Idiot's Guide のテーマはポップカルチャー、スポーツ、大学の科目、宗教、料理、クラフト、ライフスタイル、、と多岐にわたっている。ウィットに富んだ語りが楽しかったのに、サイモン&シュスター社からペンギン社グループに変わって少し堅くなったように思う。
Idiot’s Guides Series(リンク)
JP Beatles epidemic

 黄色と青と黒が目を引く For Dummies シリーズは、理系のテーマが中心だった。初期には DOS や Windows の入門書などが並んでいた。畑違いだから一冊も持っていないけれど、リストを眺めると面白い本もありそうだ。
Dummies(リンク)
EC genetics statistics

旅好きな人のために日めくりカレンダー2021/01/05

 明けましておめでとうございます。
いつものようでない新年、そのいつもと違う理由が解消されれば、スーツケースを持ってすぐにでも飛び出したい人が大勢いるだろう。

"1,000 Places to See Before You Die"死ぬまでに見たい1000カ所の日めくりカレンダーを買ったのはこれで3度目だ。めくったページはメモ用紙に使えるが、2009年版と2014年版のうち数10枚は、行きたい場所、行った場所に分け、捨てずにクリップ留めしてある。

 今年の1月1日ページはマチュピチュだった。上空からの遺跡の写真に「1911年に発見されたインカ帝国の秘境、、」と簡単な英語の説明がある。
日によってはクイズも。翌2日のモロッコ・マラケシュ、イヴ・サンローラン・ミュージアム、彼はコバルトブルーのこの家を1980年代に購入し、2008年に亡くなるまで時折滞在した。さて、サンローランはモロッコ生まれ?正しい/正しくない?(答えは裏面に)という具合だ。
旅に関する引用句が書かれたページもある。


明日はどこだろう?
ページを全部めくり終わるまでに、旅行できますように。

"1,000 Places to See Before You Die"
以前も書いたと思うけど、この本も楽しい。
死ぬまでに見たい1000カ所 ハードカバー第2版

受難の物語をなぜ読むのか2020/07/04

 数日前、タブマン紙幣の続報がCNNに出ていた。

tubmanBLM
 20ドル札の表にハリエットが登場するのは、すいぶん先になりそうだ。現政権下での発行は、言うまでもなく、あり得ない
 
 コロナ禍でやむにやまれずやみくもに開始されたZoom授業に翻弄され、ヘロヘロになりながら過ごした数週間だった。それぞれの場所にいる誰もが、初めて経験する劇的な環境の変化に疲れているだろう。出口は一向に見えてこないのだし。
 気ままな teach&fly 教えて飛んで生活がいかに幸せなことだったか、ひしひしと感じている。stay home 期間の収穫は、積ん読の山がだいぶ小さくなったことだろうか。ヴァーチャル美術館、クオモ兄弟、一ヶ月だけのNetflixでミシェル・オバマとマリッジ・ストーリー、近所の友だちと数回の海岸散歩、、、そうこうしているうちにBLM運動が激しくなった。

 テネシー州メンフィスの国立公民権博物館(ロレイン・モーテル)、アラバマ州モントゴメリーとバーミンガム、ジョージア州アトランタで、M.L.キング関連の公民権博物館を巡ったのは09年だ。それ以降もボストンの黒人歴史博物館、アーカンソー州リトルロック高校、シンシナティの地下鉄道博物館、スミソニアンのアフリカン・アメリカン歴史文化博物館など、何年もかけて、自分でも理解できない熱心さで足を運んだ。
学生時代のL.ヒューズから、ラルフ・エリスン、J,ボールドウィン、、マヤ・アンジェロウ、トニ・モリスン、、、コルソン・ホワイトヘッドも読んだ。そしてパンデミックの中のBlack Lives Matter、もう感情移入し過ぎて、胸が苦しくなるほどだ。これは一体なぜなのか?

 小野正嗣さんの文芸時評に答えがあった。朝日新聞の切り抜き(6月24日)は、同僚のY先生が講師室の引き出しに入れてくれたものだ。ありがとう、読書仲間。
「こうした黒人たちの受難の経験をなぜ僕たちは読むのか? たぶんそれらが、すべての<人間>につながる普遍性を帯びているからだ。
 警官に膝で首を押さえつけられ、母に救いを求めながら亡くなった人の姿に、僕たちが深く動揺するのは、彼が人種差別の犠牲者であると同時に、虐げられ辱められた者だからだ。彼の命とともに僕たちの中にある<人間>も辱められたと感じるからだ。 <文学>は、人種や言語の壁を越えたそうした普遍的な痛みをつねにその懐に宿し、決して忘れない。」

Following them2020/01/13

 
 
 
 
 
 
 追いかけるのではなく、ついていく。聞いたり読んだり、観に行ったり、忘れかけたりしていることがらの中に、頭の中でタグ(付箋)付けした名前がいくつかある。

virginiaTubman

 ハリエット・タブマンはPodcastに資料が置かれていた。ゴールデン・グローブでは主演女優賞ノミネートだけで、あまり話題にならなかったが。
ガートルード・スタイン、ジョージア・オキーフ、スーザン・ソンタグ、、、同様に脳内タグ付きの力強い女性たち。
ラングストン・ヒューズ、ジェームス・サーバー、ヘミングウェイ、サリンジャー、アップダイク、M.L.キング、R.ブローティガン、レイモンド・カーヴァー、、共通点はよくわからないけど、その言葉が染みついたタグ付きの人々。
彼らの名前を見つけると弾んだ気持ちになり、目を通し、保存し、読み直す。
 そうそう、ジャック・ロンドンもその一人だ。ハリソン・フォード「共演」で、バックの物語が何回目かの映画になっていた。2020年版は進化したCGがあってこその映像だろう。人気俳優だから日本公開も2月。ついていく楽しさを味わえそうだ。
アラスカでのロンドン資料 Jack London's Alaska を見つけた。映画のチルクート・トレイルや犬ぞりもさぞ迫力あるものに違いない。

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映画ハリエットとアレサ2019/11/02

 授業準備が終わった深夜、FB経由でトレバー・ノアの「ザ・デイリー・ショー」とスティーヴン・コルベアの「ザ・レイト・ショー」にアクセスする。
南アフリカ出身のトレバーは外側から天衣無縫にアメリカ社会に斬り込み、率直なトークが矛盾をあぶり出していく。内側にいるスティーヴンは、巧みなひねりでフラストレーションを笑いに変える。

 昨夜見たレイト・ショーのゲストは、映画『ハリエット』主役のシンシア・エリヴォだった。20ドル紙幣はどうなるんだろうという話も出た。この後アレサ・フランクリンの映画に主演するとのことだ。ケネディ・センター名誉賞授賞式でのアレサ画像が温かい。
 そしてシンシアのすばらしい歌声、スティーヴンと一緒に涙してください。


 レイト・ショーの音楽ディレクター、ジョン・バティステも豊かな才能の持ち主だ。グリニッジ・ヴィレッジに聴きに行きたいものです。