黒い雲が遠ざかる2020/11/08

 米大統領選が終わった。まだしばらくは騒動が続きそうだけど、ジョー・バイデンの誠実な勝利宣言に、黒雲の隙間から陽が差し込んでくるようだ。
最悪の時期は過ぎたんだね。心が軽くなり、うきうきとりんごジャムを煮た。色鮮やかに秋が深まってゆく。

applejam2020

紅玉4個 芯を取り除き、皮ごとスライス
砂糖 200g レモン汁 50cc 煮詰めるだけ
指のスライスにご注意!

放送大学科目:南北アメリカの歴史2020/10/26

 西部劇からネイティブ・アメリカン文化に流れ、そう言えば、録画したままの放送大学教材があったっけ、と思い出した。
「南北アメリカの歴史」は2014年開講の科目で全15回前書きに、アメリカ大陸全体の歴史を大きな文脈で捉えようとしたものだ、とある。太古の文明から先住民、ヨーロッパからの征服者そして入植、奴隷制、、、北アメリカだけではなくラテン・アメリカ諸国の歴史も丁寧に論じられる。

americanhistoryTEXT

 さて、掘り出したテキストを片手に録画を見始めたはいいが、精鋭教授たちの講義に全くついていけない。いかんせん基礎がないのだ。世界史を学んだ(はずの)高校時代は遥かに遠い東西冷戦の頃だし、知識などカケラも残っていない。うろたえつつ、薄暗闇を歩く浅学の徒である。その混乱をよそに、最近の研究と学説に裏打ちされた授業が、画像を交えなから淀みなく進んでゆく。ヨーロッパ史がいきなり当然のように挟み込まれる
 「せんせ〜、ちょっと待ってくださ〜い」 映像を止めてはwiki、世界の歴史大図鑑、子供たちが使った世界史図説をめくった。笑わぬ東大教授陣の中で、高橋先生のお茶目な口調にほんの少しくつろぐ。

 落ち着いて考えれば、理解を助けてくれる手がかりがわずかあった。テオティワカンのピラミッド、リスボンのエンリケ航海王子、アルハンブラ宮殿、ネルソン記念塔、プリマス・ロック、独立記念館、、、晴れていたり曇っていたり、その日の風や光(や食べ物)を含んだ風景が記憶に残っている。せかせかとむやみに歩き回った場所が、この講義を通して有機的に結びついてゆくようだ。
 これは、どこにも行けない今だからこそできる勉強なのだろう。立ち止まることがなければ、相変わらず物見遊山に、気ぜわしい旅行を続けていたに違いない。2020年の抗えない流れに、むしろ自分なりの意味が見い出せたような気がする。

使用中の参考書:
worldhistory

nativeamerican

アパッチの族長コチーズとジェロニモ2020/10/09

 暇にまかせて、次から次へとAmazon Primeビデオや録り溜めした映画を観ている。Primeには名作映画が豊富に揃っているのがありがたい。

 そうだ、ヒッチコック!と思いついてバルカン特急ロープを見たところで、まあ、やっぱりジェームズ・スチュワートって素敵ね!と『グレン・ミラー物語』『砂塵』『折れた矢』へ流れ、おお、ネイティヴ・アメリカン!で『ジェロニモ』を見始めたら、あれこれ気になることが出てきた。本や資料を引っ張り出し、ネット検索している。

 折れた矢』『ジェロニモ両作品は、19世紀後半アパッチ族の物語だ。白人入植者・軍隊とネイティブ`アメリカンとの間で長く続いたインディアン戦争のうち、最も激しかった2つの争いのひとつ、アパッチ戦争(1851-86年)が舞台になっている。
(もうひとつの大きな争いは大平原のスー族との紛争。クレイジーホースやカスター将軍の第七騎兵隊がよく知られている。)

 何気なく見始めた『折れた矢』だったが、ジミー・スチュワート扮するトムの言葉にはっ、と背筋を伸ばした。アパッチの少年を救ったことで町の人々から責められたトムが、「命を救うのに人種は関係ない」と言い切るのだ。
そして族長コチーズの元へ、郵便馬の安全確保を依頼するため単身乗り込んでゆく。シンソアレイとの恋はいかにもハリウッド的、とは言え1950年公開のこの映画、wiki解説に

フロンティア精神を背景に、タフな主人公(ヒーロー)が無法者やインディアンを倒すという、それまでの西部劇の図式を覆し、インディアン側の視点から平和を求める彼らの姿を描いた画期的な作品

とあった。
 金鉱を求めて東部からやってきたトム(トーマス・ジェフォーズ)も、彼と友情を結んだチリカウア・アパッチの族長コチーズも実在の人物だ。名将ハワードと平和条約が結ばれ、戦いは鎮静化した。

 が、この条約を受け入れずその場を立ち去った部族の長こそ、最後の戦士ジェロニモである。1993年の映画は若い白人将校マット・デイモンの回想録の形式を取り、ジェロニモ投降までの凄まじい戦いを描いていた。
 ナンタンルパンとして尊敬されたクルック将軍(ジーン・ハックマン)、老斥候シーバー(ロバート・デュバル)と名優が揃い、赤茶けたアリゾナの風景とライ・クーダーの音楽が美しい。辛口評論家だったロジャー・エバートも高評価をつけていた。
 ジェロニモの独白:

この広い土地になぜ我々の安住の地がない?
我々の信じる神がなぜ、この土地を白人に奪い取らせたのか分からない。
やつらがあれほど多くの銃と馬を持っているのはなぜなんだ?

同じような問いを何かの本で読んだことがある。そうそう、ジャレド・ダイヤモンド『銃・病原菌・鉄』の冒頭に出てくるニューギニア人ヤリの質問だ。と、あちこちに繋がり散らかってゆく。
 映画のほうは、1954年制作の『アパッチ』、フロリダへ護送されるジェロニモたちのグループから逃亡したマサイの話に進んでいる。関連作品はまだまだ数多いだろう。

 ところで、話はぐるりと戻るけれど、『スミス都へ行く』『素晴らしき哉、人生』でアメリカの良心を体現したとも言えるジミー・スチュワートは、生粋の共和党員だったそうだ。リンカーンの思想が受け継がれていた時代の。

本屋さんに行きたい2020/08/07

 謎の売れっこねえさん会、という講師仲間グループがあり、現在はそれぞれ別の学校で教えているが、時折おいしいお店に集まって本の話などしている。コロナ自粛期間に入ってからは3回、Zoom茶話会が開かれた。
 コーヒーを飲みながら、最近読んだ本の紹介をし合う。まあ、面白そう。うんうん。それ、いいですよね。へえ、そうですかあ。えっ、何なに?もう一度ご本見せてください。

 先週末に開かれた会の時、その前日に思いつきで作ったスライドを示しながら、3軒の独立系本屋さんの話をした。必ずもう一度行きたい パリのシェイクスピア・アンド・カンパニー書店、サンフランシスコのシティライツ書店、それからニューヨークのストランド書店だ。3軒とも話題にするのが恥ずかしくなるほど有名で、ガーディアン紙サイト
などにも当然載っている。そして、もう一度行きたいなんてエラソーだが、実際のところ英語の本を読むにはものすごく時間がかかるし、空間の雰囲気が好きなだけなのだ。
にしても、旅行に行けない今、それらのサイトを覗くのは何て心湧き立つことなのだろう。

 ストランドから定期的に届くメールに、先月気になる画像があった。それはフェイスマスク。その後何回チェックしても品切れだったマスクが、今日は1枚だけ注文可だ!
strandmask

 思わず飛びついてしまった。上とは違う柄、ストランドロゴ入り。うふふ。
ただし13ドルのマスクにその倍の送料では、どうもすっきりしない。本も購入するなら何がいいだろう。
ansel400

いろいろ迷った末、Amazonの「あとで買う」に長いこと入れっぱなしだったアンセル・アダムスの写真集を注文した。

 書店サイトにアクセスし、空想の中でドアを開ける。これはたぶん、小林信彦さんが教えてくれた「ド・セルヴィ式」旅行だろう。この時期、とても有効な方法だ。お買い物までしなくてもいいけど。

受難の物語をなぜ読むのか2020/07/04

 数日前、タブマン紙幣の続報がCNNに出ていた。

tubmanBLM
 20ドル札の表にハリエットが登場するのは、すいぶん先になりそうだ。現政権下での発行は、言うまでもなく、あり得ない
 
 コロナ禍でやむにやまれずやみくもに開始されたZoom授業に翻弄され、ヘロヘロになりながら過ごした数週間だった。それぞれの場所にいる誰もが、初めて経験する劇的な環境の変化に疲れているだろう。出口は一向に見えてこないのだし。
 気ままな teach&fly 教えて飛んで生活がいかに幸せなことだったか、ひしひしと感じている。stay home 期間の収穫は、積ん読の山がだいぶ小さくなったことだろうか。ヴァーチャル美術館、クオモ兄弟、一ヶ月だけのNetflixでミシェル・オバマとマリッジ・ストーリー、近所の友だちと数回の海岸散歩、、、そうこうしているうちにBLM運動が激しくなった。

 テネシー州メンフィスの国立公民権博物館(ロレイン・モーテル)、アラバマ州モントゴメリーとバーミンガム、ジョージア州アトランタで、M.L.キング関連の公民権博物館を巡ったのは09年だ。それ以降もボストンの黒人歴史博物館、アーカンソー州リトルロック高校、シンシナティの地下鉄道博物館、スミソニアンのアフリカン・アメリカン歴史文化博物館など、何年もかけて、自分でも理解できない熱心さで足を運んだ。
学生時代のL.ヒューズから、ラルフ・エリスン、J,ボールドウィン、、マヤ・アンジェロウ、トニ・モリスン、、、コルソン・ホワイトヘッドも読んだ。そしてパンデミックの中のBlack Lives Matter、もう感情移入し過ぎて、胸が苦しくなるほどだ。これは一体なぜなのか?

 小野正嗣さんの文芸時評に答えがあった。朝日新聞の切り抜き(6月24日)は、同僚のY先生が講師室の引き出しに入れてくれたものだ。ありがとう、読書仲間。
「こうした黒人たちの受難の経験をなぜ僕たちは読むのか? たぶんそれらが、すべての<人間>につながる普遍性を帯びているからだ。
 警官に膝で首を押さえつけられ、母に救いを求めながら亡くなった人の姿に、僕たちが深く動揺するのは、彼が人種差別の犠牲者であると同時に、虐げられ辱められた者だからだ。彼の命とともに僕たちの中にある<人間>も辱められたと感じるからだ。 <文学>は、人種や言語の壁を越えたそうした普遍的な痛みをつねにその懐に宿し、決して忘れない。」

Following them2020/01/13

 
 
 
 
 
 
 追いかけるのではなく、ついていく。聞いたり読んだり、観に行ったり、忘れかけたりしていることがらの中に、頭の中でタグ(付箋)付けした名前がいくつかある。

virginiaTubman

 ハリエット・タブマンはPodcastに資料が置かれていた。ゴールデン・グローブでは主演女優賞ノミネートだけで、あまり話題にならなかったが。
ガートルード・スタイン、ジョージア・オキーフ、スーザン・ソンタグ、、、同様に脳内タグ付きの力強い女性たち。
ラングストン・ヒューズ、ジェームス・サーバー、ヘミングウェイ、サリンジャー、アップダイク、M.L.キング、R.ブローティガン、レイモンド・カーヴァー、、共通点はよくわからないけど、その言葉が染みついたタグ付きの人々。
彼らの名前を見つけると弾んだ気持ちになり、目を通し、保存し、読み直す。
 そうそう、ジャック・ロンドンもその一人だ。ハリソン・フォード「共演」で、バックの物語が何回目かの映画になっていた。2020年版は進化したCGがあってこその映像だろう。人気俳優だから日本公開も2月。ついていく楽しさを味わえそうだ。
アラスカでのロンドン資料 Jack London's Alaska を見つけた。映画のチルクート・トレイルや犬ぞりもさぞ迫力あるものに違いない。

callofhewild

塩屋崎灯台20192019/12/31

 
 
 

shioyazakiLH

 前回ここを訪ねたのは2012年の10月、震災後の復旧工事がまだほとんど手付かずだった時期だ。崖は崩れて、入り口で封鎖されていた。
あれから7年、灯台への階段は美しく整備されており、高さ190mの小高い岬を登った。灯台の上まではさらに103段のらせん階段だ。ぐるぐる、ふうふう。高い所があればいつも上まで行きたいと思うが、謙遜でなく冗談でなくそのうち登れなくなるのだろうと、しみじみ、じわじわ、ひしひし、思い至る。まあ、登れるうちに登りましょ。旅行もそう、行けるうちに行かなくちゃね。
 冷たい風に吹かれて太平洋を見晴らした。沖には白い船が一隻、流れる飛行機雲、遠い三日月、
2019年が過ぎていった。