荒野のサリンジャー2014/08/11

 ちょっとかっこいいタイトルになった、ような気がするが、それほど深い意味はなく、日経新聞のコラムに井上荒野さんがサリンジャーのことを書いていた日曜日、たまたま森岡督行さんの『荒野の古本屋』を読んでおり、ちょうど図書館からケネス・スラウェンスキー著サリンジャー 生涯91年の真実』が回ってきた、というだけのことである。なあんだ、いい加減なやつ。

 荒野さんの「輝かしき20代 バイブルのようなサリンジャー 」には大いに共感した。
--- 遊んでばかりいた大学生の頃、それでも「もっと本を読まなくちゃいけない」という焦りはあった。当時(80年代のはじめ)は、今よりもずっと「本を読まない人間は恥ずかしい」という空気があった。---

 荒野さんは、バイブルのように繰り返し読んだ『ナイン・ストーリーズ』の中で「コネチカットのひょこひょこおじさん」が一番好きだった、と続けている。
その短篇は、わたしが初めて読んだ鈴木武樹先生訳の角川文庫九つの物語では、「コネチカットのグラグラカカ父さん」というヘンテコリンな題だった。
 沼沢洽治さんの「バナナ魚日和」から柴田元幸さんのモンキービジネス版まで、これまで多分4つのナイン・ストーリーズ』が出ている。
そして読み返すたび、これが一番と思う短篇は違っている。それぞれの物語から、その時どきの意味を見い出すのだろうか。半年前は「笑い男」の映像のような描写に引き込まれた。コマンチ団の少年たちは、笑い男の最期とチーフの恋の終わりに驚愕し、歯の根が合わないほどガクガク震えながら帰宅する。奇怪な冒険譚に夢中になっていた少年たちを圧倒したのは、まだ現実には知らない悲しみの感情だろうか。

 借り出したサリンジャーの評伝は、600ページを超える大作だった。開いたばかりの序章に、こんな言葉がある。
「読みたまえ。探検したまえ。始めてだろうが、20回目だろうが『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『ナイン・ストーリーズ』『フラニーとズーイ』『大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモア--序章』を読みたまえ。」

 本国で去年公開された伝記映画"Salinger"を見てみたい。没後に発見された未発表作品の出版も楽しみにしている。

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_ Tombow Notes - 2015/08/21 16:03

 6月に出版されたサリンジャーの伝記が、今週ようやく図書館から回ってきた。あとがきを含めると740ページに及ぶ分厚い本で、いつものように転がって読んでいたら肩が凝ってしま