秋の中欧旅行②ドレスデン2023/10/22

 わたしをドレスデンに運んだのはカート・ヴォネガットである。

 1945年2月連合国軍によってドレスデン爆撃が行われた時、22歳のカート・ヴォネガットは地下の食肉貯蔵庫に囚われた捕虜の一人だった。二昼夜にわたった爆撃後、数万に及ぶドイツ市民の焼死体をくすぶり続ける廃墟から掘り起こすため、生き残った様々な国からの捕虜たちが集められた。20数年経って彼はようやく、その壊滅的な光景を(奇妙な乾いたユーモアを用いて)書くことができた。
 SF小説『スローターハウス5(第五屠殺場)』の中で、主人公ビリーは時間の渦に解き放たれ、「そういうものだ」(So it goes.)とくり返す。欧州屈指の美しかった街は完全に破壊され「月の表面みたいだった」。
想像を絶する大量殺戮というトラウマ体験を、ヴォネガットは『国のない男』その他の作品の中でも、常に断片的に切り取り語っていた。

 WWⅡ以前の壮麗なドレスデンと爆撃ニュースの映像を、出発前にYouTubeで見た。
 ドイツ国鉄特急でベルリン中央駅から2時間ほど、
ドレスデン中央駅前でGoogle mapの指示通りトラムに乗れば、黄色いトラムは途中から予想外の方向に曲がってしまい、あわてて降りて石畳の道をおよそ5ブロック、ガッタンゴットンとスーツケース引いて歩くはめになった。
 苦労が報われたか、旧市街中心部にあるホテルの(屋根裏)部屋は聖母教会の真向かいだ(ヒルトンの隣り)。
窓から見下ろす広場では、にぎやかにオクトーバーフェストが開かれていた。
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 思い入れの強かったドレスデンだが、何のことはない。来れば気分は単なる観光客だ。ビジターセンター(i)でミュージアムカード2日間€25を購入(翌日から使用)、いつものように歩き回った。
 その後2日間に行った場所を幾つか列記しておこう。

君主の行列
奇跡的に戦禍を免れた19世紀の壁画は、マイセンの磁器タイルで作られている。
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 エルベ川を見下ろすブリュールのテラス
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到着日の夜、管弦楽を聴きに行ったオペラハウス ゼンパー・オーパー
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ツヴィンガー宮殿 Dresdner Zwinger
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宮殿にあるアルテ・マイスター絵画館
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シュロスプラッツ(広場)
左はカトリック宮廷教会、右がドレスデン城 Residenzschloss
城の中に緑の丸天井 Grünes Gewölbe などの博物館がある。
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少し離れたアルベルティーヌム Albertinum には
ピカソ、クレー、ゴーギャン、ゴッホなども。

シニアチケットを買い、聖母教会の塔へ石段280段余りをふうふう登った。
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 戦争による破壊から、数え切れない都市が(広島にせよ東京やベルリンにせよ)人々の大変な労力の末に復興し発展しているわけだが、このドレスデンとワルシャワなどは可能な限り元通りに修復再生されたという。
旧市街の街並みは80年前と変わらない姿で美しい。そのことに感嘆する。

 ドレスデン城の隅に、修復過程の写真が展示されていた。
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