コルソン・ホワイトヘッド2回目の受賞作2021/05/29

 読み進むのが怖い。 賢くけなげな理想主義の少年エルウッドの身に、何かよからぬことが起きるのではないか、不安な気持ちでページをめくってゆく。
コルソン・ホワイトヘッドが『地下鉄道』に続いて2020年のピューリッツァー賞を受賞した『ニッケル・ボーイズ』は、前作よりも抑えた文章で、淡々と1960年代の少年更生施設の出来事を描いてゆく。

nickelboys

 今日のCNNにこんなニュースが載っていた。
'Unthinkable' discovery in Canada as remains of 215 children found buried near residential school
カナダの寄宿学校跡付近で215人の子供の遺体が発見された、という記事だ。ブリティッシュ・コロンビア州にあったこの施設には、数十年にわたりファースト・ネイション、カナダ先住民の子供たちが家族から引き離され収容されていた。調査委員会によれば、犠牲者は4千人に及ぶという。

 『ニッケル・ボーイズ』のニッケル校は、実際にあったドジアー男子学校の存在がきっかけになっている。人種隔離政策時代のフロリダ州の少年院で、どれほどの暴力が横行していたのか。鞭打ち、強制労働、性的虐待などで傷だらけになった少年たちに逃げ場はあるのか。MLキング牧師の引用が暗闇を照らす。

 が、ホワイトヘッドは読者の願いや期待を歯牙にもかけない。安易に善の勝利を示したりしない。わたしたちはまたも虚空へと放り出される。
そして読み終われば、この薄暗闇こそが2021年の現実だということに思い至るのだ。道のり険しいBLM運動、正義がやせ細るアメリカ政治、独裁者たちに歪められる世界、、、全くもってくたびれる毎日だけれど、語り続ける人々がいる限り読み続けなくてはね。