「ジーニアス:ピカソ」のスタイン2018/11/17

 昨日、ディヴィッド・ホックニーの「スイミングプール」が存命中の画家としては最高額で落札された、というニュースが流れた。クリスティーズのオークションがこの前大きなニュースになったのは、ピカソ「花を持つ少女」を含む半年前のロックフェラー・コレクションだろう。

From Gertrude Stein to the Rockefellers: The Collecting of Modernist Masterpieces


 9月から放映されたナショナル・ジオグラフィックのドラマ「ピカソ」で、1905年にレオ・スタインがまだ無名だったピカソからこの絵を購入する場面が描かれていた(全10話の第5話)。自由奔放、言いたい放題の妹ガートルードは少女の足が「猿みたい」と感想を述べ、自宅のサロンでは花瓶で足を隠してしまう。

 スタイン・コレクションに関する資料は数多い。
For Gertrude Stein, Collecting Art Was A Family Affair
An Eye for Genius: The Collections of Gertrude and Leo Stein  など

 1905年の秋季展でマティスの「帽子の女」を一目見たピカソが「道化師の家族」の出展を取りやめた、というエピソードは本当だろうか。友達のアポリネールマックス・ジャコブに囲まれたピカソが「マティスは全てのルールを曲げた。僕は壊したい」と決意を口にする。

 フォーヴィズムへの転換点とされる「帽子の女」は、現在サンフランシスコ現代美術館の代表的所蔵品だ。妻のアメリは帽子店を経営してマティスを支えたそうだから、実際に大きな帽子を被っていたのだろう。カラフルな色彩に驚く人々がドレスの色について質問すると、「もちろん黒さ」と答えたというのは有名な話だ。

 ピカソの申し出に応じ肖像画を描いてもらうことになったガートルードは、「帽子の女」ばりの派手な帽子でアトリエ(洗濯船)にやって来る。途中一度も絵を見られず、80回もポーズを取らされた挙句完成した絵が全く自分に似ていないと、ガートルードは不満を言う。が、ピカソは「大丈夫、こうなるから」と宣ったというのも有名な話だ。When Stein told Picasso, "It doesn't look like me," he replied, "Don't worry. It will."

 この時期ピカソをインスパイアしたのは、ローマ時代以前のイベリア彫刻とアフリカン・マスクだった。ライバル心を燃やすマティスとピカソ二人の、ちょっとした口論も挟み込まれる。肖像画に示された強い意志は、キュビスムの原点「アヴィニョンの娘たち」にも繋がっていく。
スタイン肖像画は、NYCのメトロポリタン美術館で観ることができる。

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 パリのフルール街27番地、スタイン・サロンの写真を2枚置いておこう。上は本物(1908年頃、クリックで拡大、肖像画はまだ額装されていない)、下がドラマのものだ。時代考証がすばらしく、15歳の「科学と慈愛」に始まり、青の時代の作品群、ゲルニカ、関わった女性たちを描いた眠る女、泣く女、花の女、、次々と登場する再現作品に心踊るドラマだった。

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 ピカソがスタインに与えた影響についても、様々な考察がなされている。ガートルードは、言うまでもなく文学のキュビスム作品を残したのだ。
How does Pablo Picasso’s Portrait of Gertrude Stein reflect Stein’s literary portraits of Picasso?
「マティス」と「ピカソ」 : ガートルード・スタインの文学的肖像と反復 神戸市外国語大学外国学研究