ジュンパ・ラヒリをゆっくり読む2015/12/08

 ジュンパ・ラヒリがイタリア語で書いた本『べつの言葉で』(の翻訳、当たり前)を読み始めた。言葉ひとつひとつが正しく立ってわたしたちを明るい方向へ導いてくれるような文章は、英語で書かれ他の翻訳者によって訳された短編や小説と同じ穏やかな性質を持っている。言語の持つ特徴は、作者の静かな佇まいに意外なほど影響を与えていない。
 何年か前のことだが、友人が最初に入院した時、少し迷いつつ『停電の夜に』をお見舞いに持って行った。しばらくして「とてもよかった、素晴らしいね」と感想のメールが届いた。
『低地』が出たのは、おととし彼女が亡くなった後のことだ。どの作品も、もし読めば、友人は楽しんだに違いない。気忙しい時期だけれど、『べつの言葉で』はゆっくりと読んでみよう。


おおきなみどりのおへやのスタイン2015/12/15

 先週末サンフランシスコの City Lights BookstoreFB が、こんな記事をリンク・シェアしていた。画像をお借りしよう。
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 「おやすみなさい おつきさま」の緑色の部屋で、ガートルード・スタインが揺り椅子に座っている。この記事”The Surprising Connection Between Goodnight Moon and Gertrude Stein" は The Slate Book Review からのものだが、オリジナルは Public Books の"In the Great Green Room: Margaret Wise Brown and Modernism" by Anne E. Fernald(V.ウルフの研究者らしい)

 絵本「おやすみなさい おつきさま」(Goodnight Moon) を書いたのは、NY郊外出身のマーガレット・ワイズ・ブラウン(1910-52)だ。記事によるとM.W.ブラウンとスタインには深い関わりがあったという。
 M.W.ブラウンが入学したバンク・ストリート教育大学を設立したのは、ガートルード・スタインとラドクリフ大学で同窓生だったルーシー・ミッチェルだ。二人ラドクリフでヘンリー・ジェイムズの兄であるウィリアム・ジェイムズ(意識の流れ)の教えを受けた。
 ブラウンはバンク・ストリート入学以前以前からスタインを愛読しており、1934年「アリス・B・トクラス自伝」成功で注目を浴びていたスタインのレクチャーを聞きに出かけている。バンク・ストリートのプラグマティックな“here and now”カリキュラムは教師養成のためのものだったが、実験的なモダニズム文体の影響を受け、ブラウンは小さな子どもたちのための本を数多く生み出した。
 とりわけ画家クレメント・ハードが挿絵を描いた「おやすみなさい おつきさま」や「ぼく にげちゃうよ」は、古典的名作絵本として読まれ続けている。ハードが1930年代の初めにフランスへ渡りレジェに師事したという話も興味深い。

モン族まんぞく2015/12/26

 17日深夜から23日早朝まで、4泊+機中2泊でチェンマイを旅行した。
旅の備忘録は後からざっと書くことにして、まずはタイ北部の山岳民族について。
 タイの少数民族に興味を持ったのは、以前ミネソタの高校でモン族Hmongの学生数人に日本語を教えたことがあるからかもしれない。また、アメリカン・インディアンをはじめとするnative/indigenous文化にも繋がってくる

 チェンライ日帰りの現地ツアーに、山岳民族の村訪問が含まれていた。
 飾りの多いカブトのような帽子のアカ族はラオス、ミャンマー、中国雲南省周辺にも住んでいるという。シャーマニズム(祈祷)アニミズム(精霊)祖先崇拝信仰の女性たちが、パッチワーク刺繍を並べ静かに立っている。一方、テントの裏では子供たちがにぎやかに走り回っていた。
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 この村のマーケットには腰に銀のベルトをつけたパローン族と、赤い襟の上着を着たヤオ族もいる。細かい刺繍をしていたヤオ族のおばさんに声をかけ写真を撮ろうとしたら、メガネを外してにっこり笑ってくれた。ヤオ族には美人が多いって本当?
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 チェンマイのワローロット市場裏にはモン族市場がある。所狭しとカラフルな品物が積み重ねられ、楽しいのなんのって!
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 モン族は中国南部、ラオス、ベトナム、タイの山岳部に居住する少数民族だが、18世紀から迫害を受け次第に南下した。インドシナ戦争時、何万人もがフランスとアメリカの補充兵士として雇われた。その後ラオスで内戦が起こり、アメリカ軍の撤収によって行き場を失った人々はタイへ逃れた。そして難民たちはアメリカ、オーストラリア、カナダなどに受け入れられ移住した
2000年当時、ミネソタ州セントポールにもモン族のコミュニティができており、手刺繍のクラフトを目にすることがあった。小柄な学生たちのおっとりした顔が目に浮かぶ。

 旅行5日目と6日目、モン族市場をぐるぐる歩いてこれらを買い込んだ。購入は少数民族の生産者をサポートすることになる。モン族満足。いや、実のところ、満足しているのは、きれいな刺繍の布がすっかり気に入ったわたしのほうだよね。
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(一番下のパッチワークはアカ族)