フィラデルフィア・オーケストラで思い出す2011/04/23

 数日前「フィラデルフィア管弦楽団が破産申請をした」という残念なニュースを読んだ。
08年の秋、N響から移籍したデュトワ氏の初演奏会に行ったことがあり、ことさら関心を持ったわけだが、フィラデルフィアのキンメル・センターの様子と共によみがえったのは、重たいコートを着てスカーフをかぶったおばあさんの姿だ。

 以前も書いたが、『展覧会の絵』はエマーソン・レイク・アンド・パーマーが最初だった。そんな無教養者がチャンスを得て、07年にトロント交響楽団、翌年フィラデルフィア管弦楽団でこの組曲を聴くことができたのは、素晴らしく幸運なことだったろう。
が、実は08年のその日、キンメル・センターには大勢のシニア招待客が詰めかけていたのだ。ネット予約していたチケットを窓口で受け取り、エスカレータを上がる時、やや古ぼけた上着やコートを着た大勢のご老人たちが、係員に誘導されながらぞろぞろホールに入るのを見た。

 「プロムナード」始まりの印象深いトランペット、しかし何やら背後からガサゴソという耳障りな雑音が響いてくる。いったい何?
 振り返ってみると、数列後ろに座っているおばあさんが、買い物袋を熱心に探っているのだ。ぎやー、何とかしてほしい。
しかし買い物袋おばあさんの周りもご老人ばかりだ。ガサガサゴソゴソは全く気にならないらしい。
 おばあさんの探しものはその後も数分間続いた。その間、私は必死で
こんなことで大切な『展覧会の絵』を台無しにしたくないっ、頭からあの雑音と苛立ちを消し去ろう、音楽に没頭しよう!と努力し続けた(つもりだった)

 けれど3年後、フィラデルフィア管弦楽団という固有名詞で思い出したのは、ああ、やっぱり、スカーフおばあさんの買い物袋だったねえ。